NPO法人ニュースタート事務局関西

直言曲言(代表コラム)

キャッチボール

 ニュースタートクラブ(若者の会)の中に≪キャッチボール部≫ができたと聞いて,思わずのけぞった.「キャッチボールをしましょう」という呼び掛けなら,別に驚きはしない.キャッチボールとは野球を練習するときの一つの形と考えていた.それが野球と直接結び付けないで,キャッチボールそのものを楽しむためのクラブ活動だと言う.聞けば,幾つかの有名大学にも『キャッチボール部』というのが現に存在するらしい.もちろん,野球部とか野球同好会というのも別にあり,それとは何の関係もないキャッチボール部なのである.

 野球は1チーム9人であり,試合形式でゲームをしようとすれば,最低18人のメンバーがいる.アンパイアや塁審などと贅沢を言い出せばおいそれと,試合の予定を組むこともできない.川原でやるソフトボールなら,キャッチャーがいなくても,外野手が一人足りなくても何とかゲームは成立ししないでもない.昔,草原やその辺りの広場でやった三角ベースなら,ピッチャーと内野手2人,外野手1人の1チーム計4人くらいでもゲームは成立した.しかし,キャッチボールなら2人でもやれる.もちろん,3人でも4人でも任意の人数で,グラブと相応のボールがあればいつでもやれる.

 本格的に野球をやるのと違って,場所もそれほど制約されない.通行人の多い道路などは避けるべきだが,直線10m程度,幅2〜3m以上の空間があればまずOKだ.ときおりは暴投もあるだろうから背後には窓ガラスや割れ物がないほうが望ましい.ただ,とんでもない方角に打球が飛んで行くようなことはないから細長い空き地でも大丈夫だ.しかも,最低2人から始められて,その2人の力量が似通っていれば,それなりの運動量になり,30分もやっていればけっこう汗をかくことができる.

 最初は山なりの球を投げ合って,お互いの力量や運動の可能量を試し合う.ウォームアップができた頃を見計らってどちらかが強めの球を投げる.ずしりと手応えを感じたら,相手もそれなりの球を投げ返す.だんだんとお互いの間合いを広げ,呼吸が合い,空間が許すなら,20m程度の距離に広げても良いだろう.あるいは15mくらいの距離で片方が,蹲踞〔そんきょ〕の姿勢を取ればピッチャーとキャッチャーの投球練習にもなる.

 別にキャッチボールの仕方のコーチをしているわけではない.またその必要などないだろう.キャッチボールとは,いわば参加者による<対話>のようなものである.緩い球を投げられたら,自分も緩い球を投げ返す.山なりの球には,山なりの球.速球には,速球を投げ返す.それがルールであり,上手にゲームを楽しむ方法である.しかし,緩い球のやり取りをしていて,いきなり速球を投げてくる人もいる.そうすると,こちらも全力投球の剛速球を投げ返そうとむきになる.対話で言えば,穏やかに話し合っているときに,相手がいきなり攻撃的な対話をしかけてくる.こちらの弱点を突こうとしたり,こちらを非難する言葉が飛んで来たりする.すると,こちらも激昂して言葉を投げ返す.
  実は,私はこのように簡単に激昂してしまう癖がある.これで,お互いが非難と激昂の言葉の応酬をしてしまうと,もうキャッチボールにはならない.相手の急所めがけての剛速球あり,大暴投ありで,窓ガラスは割れ,周りにいる人まで早めに避難しなければならない.私などは,自分の弱点や論理的な脆さを常に意識しているから,そこを突かれるとすぐにカッとなりやすいのである.

 こうした暴投の投げ合いはお勧めできないが,キャッチボールはある程度,強めの球を投げ合うところまで行かなくては面白くない.つまり,お互いに力の均衡を確かめ合いながらではあるが,全力投球に近いところまで行けるのが醍醐味である.

 最初は数メートルの距離で緩い球をトスする様に投げ合っている.いつまでもこの状態ならキャッチボールではなく,ボールを使ったじゃれあいである.片方が少し強い球を投げながら,距離を広げて行こうとする.しかし,もう一方は相手が後退する分だけ前進し,つまり距離を広げない様にしてしまって,相変わらず緩い球しか投げなければ,これもキャッチボールとして面白みがない.これは,相手が強い球の投げ合いを望んでいないのだから,私はこんな場合,しばらくは緩い球の投げ合いに付き合うが,適当な時間に「もうやめよう」とゲーム終了を宣言することにしている.ところが,中にはこの緩い球の投げ合い,つまりはボールを使ったじゃれあいを長時間挑んでくる人もいる.コンピュータ通信や携帯メールを使った≪チャット≫とというのもこれに似ているらしい.それほど意味があるとも思えない会話を延々と繰り返す.これ似にたことをやられると,コンピュータの前から離れることができなくなる.私は若い頃から,短距離走は得意だが長距離やマラソンは苦手だった.

 もう一つ,キャッチボールに託した比喩.相手が強い球を投げてきても,強い球を投げ返さない人がいる.相手の強い球は受け止めるが,必ず緩い球を投げ返してくる.これは,野球のポジションで言えばキャッチャータイプである.全力投球に専念するピッチャーから見れば,こういう受け手,投げ手は誠にありがたいとも言える.論争で言えば,受けて流す人であり,相手のしがいがないとも言える.相手はキャッチボールをしているつもりはなく,ただ相手の投げている球を受け止めているだけである.カウンセラーと称する人種との対話は概ねこんなものである.

 相手はこちらと対等の会話をしているのではなく,ただ単にこちらの言葉を受け止めているだけなのである.そして,こちらの投げる球の強弱から,こちらの心理を読み取ろうとしている.相手は決して激昂もしないし,間合いを広げもしなければ狭めもしない.やがて,投球練習の付き合いをしていたキャッチャーよろしく,ピッチャーであるこちらの側に寄って来て,色々とアドバイスを始める.こちらを治療しようとするのである.こちらから治療してもらうつもりでキャッチボールをお願いしたのなら,それで満足すれば良いが,対等に楽しんでいたはずのキャッチボールで,こうしたアドバイスをしたがる人は,嫌われるのでご用心.

(12月4日)