NPO法人ニュースタート事務局関西

直言曲言(代表コラム)

廻転寿司

 廻転寿司が流行している.別段最近の新業態と言うわけでもなく,かなり以前からあったのだが,最近は盛り場だけではなく,郊外のロードサイドにも増えていて,かなり繁盛している.なぜか『回転』ではなく『廻転』と表記している店が多いのだが,大した意味の差はないらしい.

 廻転寿司と言えば,私など少し古い年代の者には,失礼だが『安物のお寿司屋さん』というイメージが強かった.寿司と言えば店により値段の差が大きい食べ物の代名詞のようなもので,店に入って値段の表示がないところや,やたらに『時価』と書いてあるようなお店では,安心して食べていられないものであった.そうしたお寿司を大衆的なファストフードにしてしまった功績は大きいのではないか.関西でも最近人気の高い2〜3のチェーンでは,常に満員で空席待ちなのだが,廻ってくる寿司ネタはさすがに飛び切り新鮮で,人気のわけも分かろうというものである.

 しかし,わが娘達から最近の廻点寿司の評判を聞いていたので『一度試してやろう』と思って初めて入った廻転寿司の店は,そうした人気店とは違って,かなり鮮度が失われたネタがいつまでもくるくると廻っているような店だった.

 人気のお店なら客の入りも良いから,並べられた新しいネタにはどこかからさっと手が伸びて,自分の目の前に廻ってくるまでになくなってしまうことが多い.
  こちらも食べたいネタを探して,それこそ目を皿のようにして待ち構えていなければならないので,余計なことを考えている暇はない.私の同伴者の女性(なぜかいつも同じ人物なのだが)などは,『私,今日はお腹が空いていないから余り食べられない』と言いつつ,廻ってくるお皿に次から次に手を出し,あっという間に手をつけていないお皿が3つも4つも溜まってしまうのが常である.

 そのお店は,少し客の入りに余裕を持たせたお店だったので,いつまでも同じネタが廻っていた.表面が乾いてしまったイカ,身が張りを失って尻尾を股間にしまいこんだ犬のようにシャリに巻きついてしまっている赤身のマグロ,鯛でもヒラメでもなさそうな正体不明の白身,うっすらと表面に埃を被ったようなプリンなどがいつまでも性懲りもなく廻ってくる.
  もちろん,回転寿司とはいえ,自分のほしいネタは声を掛けて注文することもできる.しかし,注文をするなら普通の寿司屋に行けば良い,廻転寿司なら廻ってくるのをつまむのが<王道>だと思うから,私はいつまでも待っていた.それに,不運にもそのとき私が食べたかったのはイカに,マグロに,白身だったのである.

 寿司ばかりをいつまでも見ていても仕方がないので,私の視線は自然と寿司が並べられている下の廻転皿のほうに移動することになる.乾ききった寿司ネタの方は,2〜3周廻ってくるのを見つめていると,既に私に何の感興も抱かせなくなったのだが,この廻転皿のほうはなかなか興味深い代物である.
  くるくると廻りながら微妙に身体を揺すり,体勢を立て直したり,前の皿に乗り上げそうになるかと思えば,即座にスピードを緩め,車間距離を取りやがてまた整然と進行していく.カーブが近くなるとまたスピードが緩み,そして信号の指示に従うように決然として,くるりと向きを変え,右折して行く.

 このお皿の廻転システムを考案した人は<かなり>偉い.さぞや,特許料で儲けただろう.いや,実用新案かも知れない.私の妄想は別の方向に回転した.この廻転システムは必ずしも寿司にだけ適用すべきものではない.既にどこかでやっているのだろうが<廻転居酒屋>なんていうのがあっても良い.女性向きには<廻転ケーキ>も行けるだろう.<廻転串カツ><廻転ピザ><廻転ソーメン><廻転ドーナツ><廻転タコ焼き>…それから,うーん,エーと,いっそのこと<廻転・回転焼き>〔註〕なんていうのはどうだ.
  〔註:回転焼き 円形の鉄板の間で焼いた餡入りの小麦粉饅頭.地方により太閤焼,太鼓饅頭などとも言う.姫路では『御座候』という名の名物になっている.〕

 どうも,廻転皿を見つめすぎているうちに私の頭の中が堂々廻りに陥っている.『自家撞着』とか,『悪循環』とかという言葉が頭に浮かんで来る.
  これほど同じものが,同じところをくるくる廻っていて,果たして許されるのだろうか? これでは引きこもりの若者の思考と同じではないか? 解決の出口を見出せず,繰り返し,繰り返し同じ経路で,同じ手順で同じ結論のところに戻って来る.
  これではダメだ! 誰かがこの悪循環を断ち切り,お皿の行き場所を変えてやらねば! お皿が廻っているのを,傍観者のように見つめているだけではダメなのだ.第三者のちょっとした一言がヒントになって,事態が革命的に『転廻』することも有りうるのだ.
  私は意を決して,次の行動に移ることにした.立ちあがり,そして大きな声で叫んだ.

『済みません,お姉さんビールをもう一本下さい!』

(5月17日)